第199章 愛日
――――その日の夜。
いよいよ本格的に兵配置等を詰めていくにあたり、新兵や編入した兵士の記録書に目を通しながら編成を考える。執務室で膨大な資料の山と対峙して、しばらくぶりに伸びをした。
凝り固まった体が緩むのを感じる。
――――そう言えば今日は……ナナが紅茶を淹れに来ねぇなと思い、ハンジの団長室にまだいるならハンジを〆てやろうかと自分の執務室をあとに、ハンジの部屋に向かおうとしたその時。
ナナが、奥の廊下を通って……角を曲がって姿を消したのを見た。ほんの一瞬だったが、俺はどんな一瞬でも、ナナを見間違わない。そしてその一瞬で見た横顔は、決して楽しそうな表情じゃなかった。
「――――なんだ……?」
ナナが消えた角を追っていくと、誰も通るはずもないため明かりのひとつも灯されていない、屋上へと続く階段を……窓から差し込む微かな月光だけがぼんやりと照らしていた。屋上に続く扉の前で一瞬耳を澄ませると、ナナと誰かの話声がする。
俺は気配を殺して、そのやりとりに耳を傾けた。
「――――娘さんは、元気ですよ。」
「………なんですか……、わざわざそれを言いに、ここに呼んだの……?」
――――この声は、フロックだ。
最近妙に行動的だなと思っていたが――――……またナナに手を出そうってなら……――――次はねぇと、言ったはずだが?冷えた殺気を何とか抑え込みながら、またその会話の行方に耳を傾ける。
「――――エレンの行動を、あなたはどう見ますか?」
「どう……って……。」
「――――無謀だと思いますか?それとも勇気がある?」
「こんなの………、勇気だとは、思わない……。私たちの気持ちを知っていて、なぜ……。」
「――――………。」
「――――私は、悲しい……。エレンと一緒に考えて……一緒に……越えて行きたかったのに……、きっとみんなも、そう……思ってる……。」
――――ナナの声は、震えていた。