第198章 不和
「――――イェレナさん。私たちはあなたがジークに抱くような心情には到底なれません。だって……見て来たものも、経験してきたことも違うんですから。」
「――――……だから疑うと?」
イェレナさんは理解しがたい、と言った表情で首をかしげて腕を組んだ。
「疑います。それは生きるために必要な本能ですから。――――でも悪意じゃない。だからそんなに過敏にならないでください。」
「まったくナナの言う通りだ。――――そもそも簡単にマーレを裏切って寝返った奴らを簡単に心の底から信用するかよ。」
はん、と腕を組んで鼻を鳴らしつつそっぽを向いたサッシュさんに抗議の目を向けて言葉をかける。
「――――サッシュ分隊長、一言余計です。」
「………わ、るい………。」
「――――へぇ、ナナさんはリヴァイ兵長だけじゃなく……、分隊長まで手玉に取ってるわけですね?」
「―――――あぁ?!てめぇ……!」
私を貶したイェレナさんに向かって、先ほどよりもよほど怒った様子でサッシュさんが今度こそイェレナさんの胸ぐらを掴んだ。
せっかく収まった火種を、どうしてイェレナさんは蒸し返すのか……。
「サッシュさん!!」
私は慌ててサッシュさんの手を制するように止める。
目を見つめて首を横に振ると、サッシュさんはバツが悪そうに俯いて……手を放した。
アルミンやミカサはおろおろとしながら、ハンジさんとリヴァイ兵士長は腕を組んだまま黙っている。
私はイェレナさんを見ていて不思議に思った。
――――この人は賢い。
怖いくらいに頭が切れる。
なのに……こんなに調査兵団の中で不信感を買うような言動をしたところで得にならないはずで。……さっきから時折垣間見せる嫌悪の表情は……思い通りに自分達を信用してくれないことへの憤り?
いや、そんなに「信じあって手を取り合おう!」なんて精神論を重視するタイプじゃない。
――――だとしたら。