第17章 蠱惑
「ナナ、悪い、ちょっと診てくれるか?」
サッシュさんの声。いつものように訓練中の手当に奔走している私を、高確率で見つけて呼び止める。
「はい。」
「さっき、右足変な付き方しちまって……。」
サッシュさんはブーツを脱ぎ、患部を見せてくれた。私はその足先を持って、足首の可動域と痛みがないかを確認する。
「……失礼します。これは、痛いですか?」
「いや。」
「これは?」
「外側に向けると、痛いな。」
「外側に体重が乗らないようなテーピングをしますね。」
「ああ、頼む。」
私はあまりにスムーズなやりとりに、テーピングを巻きながら思わずふふっと笑ってしまった。
「えっ、な、なんだよ。何かおかしいか?」
サッシュさんは少し動揺した様子で私を見る。
「………いえ、随分素直になられて、嬉しいです。以前はほら……私が追いかけて無理やり脱がさないと、診せてくれなかったじゃないですか。」
アルルを失って気付いたこと。
リヴァイさんへの気持ちと、もう一つは、この何気ない日常が、いかに愛おしいものであるかということ。
訓練をして、戦友たちと話して、食べて、眠る。明日が当たり前に来るものではないと思い知ったからこそ、今この瞬間を大切にしたい。
「そ、そりゃお前がほら……いい奴だってわかったし、腕も確かだしよ……!」