第2章 変化
「クロエ様。とんでもないことでございます。」
ハルが頭を下げた。
「………ナナ。私があなた達にしたことは、決して許されることではない……。でも、あなたに会いたいとハルに我儘を言ったの。どこまでも勝手な母で……ごめんなさい……。」
「………全く恨んでいないと言えば、それは嘘になる。でも、私は知りたい。お母様が私たちを置いて出てった理由を。」
私は母を真っすぐ見つめて言った。母は私の頬に愛おしそうに手を添えた。
「そうね。………立ち話もなんだわ。中へ入りましょう。」
とても裕福とは言えない家だった。
最低限の生活用品が並んでいる。母はキッチンでお茶を淹れている。なんと懐かしい光景だろう。部屋の中をきょろきょろとしていると、ふいに壁に掲げられたジャケットに目がとまった。
「……自由の……翼……。調査兵団の………?」
王都では、憲兵団しか見たことがなかった。
壁外で巨人を相手に、自由を取り戻すために命を懸ける彼らのことを、王都で良く言う者はいなかった。
ただ私は、初めて見る自由の翼に魅入っていた。
その時、奥の部屋の扉が開いた。
「クロエ?お客さんは来られたのかい?」
ひょこっと顔を出したのは、黒髪の精悍な顔立ちの男性だ。
私の心臓がドクンと跳ねた。
この人が……お母様を私たちから奪った人なの………?
「………せっかくの機会だから、ちゃんと紹介させてほしいの。あなたもこっちに来て下さる?」
「ああ。もちろんだ。」
そう言うとその男性は、松葉杖を付いて部屋から出てきた。
右足の太ももから下が……なかった。
私は驚いて目を見開いたが、すぐに男性に駆け寄り手を貸そうとした。
「ありがとう。大丈夫だよ。それより驚いただろう?」