第197章 回帰
「――――なぜ黙る。聞かせろ、もっと。」
「………でも……。」
こんな話に兵士長の時間を割く、わけには……とおずおずとリヴァイさんの目を見た。その表情は驚くほど優しくその目を細めていて……頬杖をついて、私を見つめていた。
「――――お前に似てるか?」
「……あ、っはい……、もう、瓜二つで……。」
「――――なら良かった。」
そう小さく笑ってから……、またリヴァイさんはカップに口をつけた。
――――あぁ、どうしよう。
やっぱりどうしても、苦しいくらいに、好きなんだ。
こうやっていつまでも私はあの地下街の頃のエイルに引き戻される。あなたの横顔をこうして盗み見て……胸をときめかせている。
――――母だなんてことを、忘れて……ロイがいつか言った、 “愚かな女” に、簡単に堕ちていく。
「――――外の……。」
「あ?」
「外の世界は、どうでしたか……?」
「………手紙に記した通りだが……、栄えた文明だった。戦争が勃発しちまえば勝てる算段はねぇだろうな。」
リヴァイさんはソファの背もたれに背を預けて、僅かに天を仰いだ。
「そう……ですか……。」
「――――だが、同じだった。マーレ人も、エルディア人も……他国の移民も……。みんな同じだった………。」
「――――………。」
「殺し合わなくていい世界を望みたい。……が、それは叶わねぇらしい。」
リヴァイさんは国際討論会での事、そして市場でスリを働いた少年の話をしてくれた。――――私は俯いた。
だって……この世界のどこにも、私達から和平を歩み寄れる可能性がある国なんて、存在しないのかもしれない……。
「――――あぁ、そうだ。」
「??」
私が俯いていると、リヴァイさんが何やら急に立ち上がった。すたすたと執務の机に戻って、ガラ、と引き出しを開けて、リヴァイさんらしからぬ……可憐な白い花を一輪、取り出した。
リヴァイさんは私のところに戻ると、私の前にそれをずい、と差し出した。