第197章 回帰
懐かしい扉を、ノックする。
「――――ナナです。」
「………入れ。」
「失礼します。」
――――あぁやっぱり、この広い執務室で……無駄な調度品のないシンプルな部屋で、この趣のある机に向かうあなたが好きだ。――――その顔は、かなりご機嫌斜めなように見えるけれど。
リヴァイ兵士長は眉間に皺を寄せて私をじっと見ている。
「――――お手伝いできること、ありませんか?」
「――――ねぇよ。」
「そう、ですか……。なら、紅茶を淹れましょうか。」
「いらねぇ、ハンジについててやれ。」
「ハンジさん、眠っちゃいました。」
ふふ、と笑うと、リヴァイ兵士長は少し目を開いてから、ふん、と鼻を鳴らした。
「――――お前がいるとあのクソメガネが嬉しそうだ。そこだけはまぁ……いいとする。」
「いいとする、って。」
その言い方が面白くてまた、笑ってしまう。
「――――気が変わった。紅茶を淹れろ。2人分だ。」
「はい、リヴァイ兵士長。」
懐かしいそれが嬉しくて、とびきり美味しい紅茶をいれようと心が躍る。
湯気の立ち上る2つのティーカップをトレイに乗せて運ぶと、リヴァイ兵士長は二人掛けのソファにかけていた。彼の前にカチャ、と小さな音を立てて紅茶を置く。
自分の分は向かいの一人掛けのソファに、と思ったその時、リヴァイ兵士長は自分の隣を指さした。
「そっちじゃねぇ。ここに座れ。」
「――――はい………。」
2人並んで紅茶を飲む。何を話していいのか……ずっと手紙でしかやりとりをして来なかったから……面と向かって話すのは……あの海を見に行った日……、地下室で汗ばんだ身体を寄せ合って重ね合ったあの夜、以来だ……。
そう思うとなんだかとても恥ずかしくなってしまって、目が……見られない。
むしろ向かい合わせに座らなくて良かったと、思った。