第197章 回帰
「――――あなたが羽ばたける自由の空を得て来るから。みんなと一緒に。――――だから、行くわ。」
「おかぁ、しゃ………!」
「―――――こんな母で、ごめんね………。」
私に縋るように伸ばされたその手を、私は放した。
ごめんね。
大好きよ。
必ず戻るから。
――――そしたら……、たくさんたくさんあなたを抱き締めて、ずっと一緒にいよう。
――――例え今あなたに理解されなくても………、きっとあなたに、平和な世界を……自由の世界を、見せてあげる。
―――――そうやって………、まるで “良い母”のような建前を並べて……、私は、自分の生きる意味を……エルヴィンと交わした約束をただ我儘に果たそうとしている。
――――酷い親であることに変わりはない。
――――あんなに恨んだ、私を置いて行ったお母様と……同じ事を……いやもっと身勝手で酷いことを、している。
皮肉にも、私は……こうして “置いて行かれる子供”の気持ちよりも、 “置いていく母の気持ち”をわかってしまえるほどには、親というものに……なれていたのかもしれないと思うと複雑だ。
――――そして出立の日。
泣きじゃくる娘をハルと母が抱きしめてくれている中、一生懸命に伸ばされた小さな手を取ることもなく、振り返らずに――――……小さく涙を拭って、私は王都を発った。