第197章 回帰
そしてその日、温かな日差しが降り注ぐ実家の庭で……私は娘に話した。
「――――あのね、お母さん……少しあなたの側を、離れなくちゃいけないの。」
「すこし?」
「………ううん、ごめん……嘘はいけなかったね。すこし、じゃない……多分しばらく……長く会えない。」
「………やだ。」
「そう、だよね………。」
首を横に振る娘を、ぎゅっと抱きしめる。
側にいたい。
幼かった私がそう、母に願ったように……。
でも……でも………、もし、もしフロックさんからの要求に応えずに……万が一あなたになにか、あったら………。
フロックさんはそこまで、悪い人だとは思えない。
信じる何かのために、自分の生きる意味を全うするために強行手段に出ているだけで……幼い子に危害を与えるような人じゃないと、思いたい……けれど。
そう高を括って……何か、この子に起こってしまったら。
――――私は死んでも死にきれない。
後悔しか残らない。
――――だから行くの。
娘の肩に両手を置いて、目線を合わせて話す。
「――――お母さんはね、あなたを守りたいの。」
「……………。」
「そして……私は、この世界がどうなっていくのか、見届けなきゃいけない……。リヴァイさんを、ハンジさんを……最後まで、支えたいの。」
「…………いやだぁ………。」
きっと私が何を言っているのかは……まだ3歳のこの子に理解しきれるはずがない。
それでも、きっと私がなんとか説得しようとしていることは伝わるのだろう。娘は………ふぇ、と顔をくしゃっとしかめて、その大きな瞳に涙を溜めた。
増える言葉と、伸びていく髪。
大きくなる体。
――――その成長を、ずっと側で見ていたい。
愛しい、大好きなあなたを手放したくない。
あなたの笑う顔をずっと、見ていたい。
――――でも私は結局、自分の選んだ道を行くの。
それはもう遺伝子に組み込まれた……私の中核がそう、させるのかもしれない。