第17章 蠱惑
午前の訓練を終えた私は、いつものように訓練中の負傷者の手当に奔走していた。寒くなってくると、ほんの少し筋肉や関節の動きが鈍るため、怪我が増える。
立体機動での激しい動きのさなかに木々かブレードに当たったのか、腕から血を滲ませている女性を見つけた。あれは確か―――――――
「ニナさん!腕、かすってます。診せてください。」
「ありがと……っ……!」
私が下から呼ぶと、ニナさんはすぐに降りてきて腕を差し出してくれた。処置していると、ニナさんが口を開く。
「ナナだよね?」
「はい。」
「………アルルが、言ってた。怪我しても、ナナが必ず治してくれるからって。」
「…………。」
「アルルを、守れなくてごめん………!」
私はニナさんを見つめて、首を横に目一杯振った。
「遺品、届けてくれてありがとね。今度さ、アルルのこと、たくさん聞かせてよ。」
「はい………っ!」
彼女はアルルと同じ班にいたそうだ。目の前で死なせた、彼女のほうが辛いに決まってる。
ニナさんは、アルルとどんな話をして、どんな時間を過ごしたんだろう。
……アルルはあの人懐っこさだ。きっと班の中でも、あの笑顔でいたに違いない。
いつか、ニナさんと話したいな。
アルルのことを、たくさんたくさん。