第196章 現実
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――――エレンが、エレンが姿を消した。
ずっと様子がおかしいとは……思っていたけど、でも……なんで……。
国際討論会の途中に退席したエレンの背中を見た。それを最後に、どれだけ探してもエレンは見つからなかった。
アズマビト家の屋敷に帰ったみんなは、想像以上に打ちひしがれて混乱していた。だってそうだ、世界は想像よりもずっとずっと残酷で、私達パラディ島の悪魔は……同じユミルの民からも悪魔と呼ばれ……誰一人耳を貸してなんてくれそうにない。
そして……敵の最重要目標であるエレンが、姿を消した。
――――連れ去られたわけじゃない。
自分の意志で姿を消した。
それは……私が昨夜……エレンの問に、違う答えを返していたらもしかしたら……防げたの?
なんて……いくら考えてもわからないけれど……。
昨晩この屋敷からエレンはまた一人勝手に抜け出していた。
私がエレンを見つけたのは……昼間にスリを働いていた少年が暮らしているのであろう、難民が生活する質素なテントのようなものが集まる場所。
それを見つめて、エレンは涙を拭う仕草を見せた。
『――――あれは市場の少年?何があったの?』
『……まだ何も。』
『……エレン、どういうこと?ここは?』
『戦争で居場所をなくした人たちが集まって暮らしている。俺達もそうだった。ある日突然日常が終わって、何もかもが奪われた。――――すべての自由を、奪われるんだ。』
――――エレンが何を言っているのか……わからなかった。まだ何も……?ならいつか何かがここで起こるの?何かを知っているの?そう、頭の中でぐるぐると考えていると……、エレンが思いもしないことを尋ねて来た。
『ミカサ……、お前はどうして……俺のことを気にかけてくれるんだ?』
『……え?』
『子供の頃俺に助けられたからか?それとも……俺は家族だからか?』
『……え?……え……?』
エレンが真っすぐに私を見つめて……切なく細めた目で、私に問う。