第196章 現実
結局問題を起こさずに俺達が過ごすなんてことは無理だったんだ。なんとかガキを連れて走り去って、その場を脱した。
そのガキは嬉しそうな顔で、遠くから何度も頭を下げた………が、その手には財布が握られている。
「――――あ?」
俺のスーツのポケットから、抱きかかえられている間に抜きやがったな。
「――――ちっ……。まぁ、アズマビトから貰った小遣いだしな。」
――――それにナナには土産が買えた。
だから良しとするか。
………恩を感じるような相手からもスらなきゃ生きていけねぇほどの環境なのだろう、あのクソガキも……。同じような生活をしてきたガキを、俺は何人も見て来た。せめてもの生活の足しにしやがれと思いつつ、今度こそ俺達はアズマビトの屋敷へ向かった。
「――――そのような事がありましたか……。」
キヨミは昼間の俺達が遭遇した移民のガキの話を聞いて、ため息をついた。かつてエルディア帝国が名を馳せた時代とはうって変わって、今では各国に散った “ユミルの民” を炙り出しては収容し管理しようという状況にあるらしい。
「――――これが壁外でのエルディア人の現状……。そしてパラディ島から友好を図る本計画も、極めて困難であると言わざるを得ません。」
そこにいた全員が、落胆の表情を見せた。その中で口を開いたのは、アルミンだ。
「かと言って、和平の道を諦めるなら……ジークの謀略に加担するしかなくなります。彼に我々の運命を委ね、ヒストリアと生まれて来る子供達を犠牲にするしか……。」
「あぁ、もちろんそんな未来を迎えないために私たちはここにいる。明日行われる国際討論会で初めて登壇する “ユミルの民保護団体”とやらを求めてね。」
――――そうだ、ハンジが述べたことこそが、今回のマーレへの潜入の最重要項目だ。和平の道を探る手がかりに、協力者になりうるかもしれない “ユミルの民保護団体” その団体の真意を見極める。