第196章 現実
「なんだ。なにか用か。」
「いや?――――ただ……本当にこの船に乗って……大陸を目指したかったエルヴィンとナナが今ここにいないなんて……、神様は意地が悪いなって思ってさ。」
ハンジがわずかに目を伏せた。
「―――――エルヴィンは見てんだろ。どうせ……そこらから。」
「はは!そうかも。」
「―――――ナナは……、いつか見せてやる。あいつの望んだ世界になったら。」
「………相変わらずあなたはナナに過保護だね。」
「――――うるせぇ。」
――――しばらくして、遠くに大陸が見えて来た。
遠くから見ただけでわかる、俺達の島より遥かに発展した文明だ。建造物も港も……規模が違う。俺達はこれからこの文明を相手にするのか?そう思った矢先、ハンジが同じように口に出した。
「……うへぇ、すごいね。この文明が、世界が……私たちを悪魔と呼んでいて……死に絶えることを望んでいる………。」
「――――………。」
「――――でも、そうならないように、何かできることがあるはずだ。だからここに来た。」
こんな絶望的な状況で、あくまで相手を……世界を知るために調査に行こうだなんて甚だ甘い話で反吐が出るが……、相手を知らずに戦えば必ず負ける。情報の収集は重要だ。
――――それに……ナナがいつか言った……、憎み合う前に相手を知れば……なにか変わるのか?と……淡い期待を僅かに胸の内に残していた。
「本当に壁の外にも街があって……人が住んでいるんだな……。」
詠嘆するようにコニーが甲板から街を眺めて呟いた。冷静ぶっているが若干怖気づいたような様子のジャンがすかさずコニーに釘をさす。
「壁の外、とか他人の前で言うなよ。」
「あぁ……分かってるって。」
「いよいよですね……。私たちが壁外の地を踏む初の壁内人類……。」
「だから言うなって。」
割とでけぇ声でまたサシャが呟く。
サシャの言葉に続けて、ハンジが久しぶりに少し楽しそうに声を上げた。
「――――これこそがもとより我々に課せられた仕事と言える。調査開始だ!」