第195章 決意
フロックを遣いにやってから数日後……ヒストリアが運営する孤児院を見渡せる丘に、俺はいた。孤児院から一人の女が出て来て………俺の方に歩いて来る。
久しぶりに聞いたヒストリアの声が俺を呼んだ。
「――――エレン。」
「―――よぉ、久しぶりだなヒストリア。」
「どうしたの……。あなたは今身柄を確保されて厳重警戒されているはずでしょう?」
ヒストリアははぁ、とため息をつきながら歩を進め、俺の隣に立って同じ方角を……見つめた。全方位、誰が接近してきてもすぐに気付けるほどだだっ広い敷地のど真ん中は……こそこそ隠れて密会するよりもむしろ目につきにくく、怪しまれにくい。遠くから見れば俺達はただ世間話をしているだけの、孤児院の係員に見えるだろう。
「――――憲兵団はお前を巨人にして、島に来たジークを食わせる計画を進めてる。」
本題を切り込むと、ヒストリアは数秒の沈黙を持って、一言小さく呟いた。
「………そう。」
「憲兵と争うか、ここから逃げるしか……逃れる手はない。」
ヒストリアの髪が風に揺れて……その揺らめきを押さえるように髪に手をやったまま、ヒストリアは答えた。
「……私だって牛の世話だけしてたわけじゃない。わかってる。」
「――――………。」
「争う必要も逃げる必要もない。この島が生き残る一番堅実な方法があれば、私はそれに従う。」
――――受け入れる。と、言うのか。
お前はいつもいつもそうやって……辛い立場を引き受ける。
俺達のために……。
だがそんなことは、俺がさせない。
お前はお前の通り生きていい。
親と子で食い合いながら他者の命を守るために生贄になんて、ならなくていい。