第194章 蜜語
「――――あら、なんでしょうね。喧嘩ですかね?」
バリスさんが走り去ってからイェレナがそのなんとも読めない表情で俺に話しかけてきた。
「……お前たちは気にせず、会場に移るんだ。歩け。」
「……冷たいなぁ、君も。私たちはこんなに君たちを信じ、ともにエルディアを救おうとただ懸命に働いているのに。」
はぁあ、とため息を零しながらイェレナは言った。
「余計な事を話すな。」
「――――君、名前は?」
「……フロック。」
「――――ねぇフロック、エルディア人を救うのは誰だと思いますか?」
「――――知らない、そんなこと。」
俺が目を合わさずに言うと、イェレナはふふ、と笑った。
「――――あなたですよ。」
「…………!」
その言葉に、耳を疑った。何を言ってるんだ、この女は。
「あぁ失礼。もちろんあなただけじゃないですね。この島の……善良で志の高い人々だ。」
「…………。」
「――――でもね、彼らは立ち上がれない。一人じゃ声をあげられない。私もそうだった……。でも私はある時、光を見た。エルディア人を救う希望の光。だから立ち上がれた……。」
イェレナは雑踏の中で、うっとりと過去のことを話し始めた。
――――罠かもしれない。
俺を使ってどうにか……何かを企んでいるのかもしれない。聞く耳を持っては駄目だ。
「さっきから……余計な事を言うなと言っている。」
イェレナを睨み付けても、ニコリと笑ってその口を閉じようとはしない。
「これは独り言ですから。」
「…………。」