第194章 蜜語
ただし警備はより入念にすべく……特にイェレナの監視については調査兵団の面々を交代で当てていた。
「バリス、イェレナの様子はどうだ。」
開通式の式典が終わり、これから祝賀会の会場へと移動が始まるその僅かな雑踏の中で、俺はイェレナの監視をしていたバリスに声をかけた。
「兵長。目立ったような怪しい動きはなにもありません。」
「そうか。引き続き頼む。おかしな動きをしたら拘束していい。」
「はい。」
トロスト区の駅構内で行われた開通式は、そこまででかい規模でもない。ただその一か所にこの国の頭が集まることが問題だ。占拠して人質に取られでもしたら、成すすべなく奴らの思うままになる。
――――が、イェレナはまるでそんなことを微塵も考えていないと主張するように、ずっと自ら進んで警備を置いて監視してくれと言ってきた。
いついかなる時も監視がついていて……ここ数か月、全くと言っていいほど不審な動きはない。まるで『疑われる余地を作らないようにしている』ように見える。
一度それをイェレナに問うたが………『友好関係を築きたいから疑念を持たれないよう振る舞う、ごく自然なことでしょう?どうぞいくらでも警戒して見張ってください。私にはやましいことなどなにもない……ただ、エルディア人を救いたい、それだけなのですから。』
――――と、色のない表情で言いのけた。
――――そのぺらぺらと出て来る薄っぺらい言葉が、やはり俺には信用ならないものに聞こえる。
俺は疑念の目をイェレナに向けた。
するとその視線に気付いたイェレナは不敵に俺に笑みと会釈を返した。
「――――ちっ、気に食わねえ。」
「兵長は彼女をお疑いですか。」
「――――ああ。」
「そうですか……自分には、心からエルディアを救おうとただ熱心なように見えますが……。オニャンコポン、彼も同じく……。」
「――――そうか……。」
バリスもまたイェレナとオニャンコポンに目をやった。
「――――俺は先に祝賀会の会場へ行く。祝賀会もだが……祝賀会後、奴を宿泊場所に送り届けるところまで、ぬかるなよ。」
「はい。」
そうバリスに言付けて……俺はその式典会場を去った。