第194章 蜜語
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ナナから誕生日を祝う手紙が届いた。
その文字を見るだけで……、一文字一文字心を込めて、思いを伝えようと書いたのだろうということがわかる。
会いたい。
会って抱きしめて……その体温を分けろと言えばときっとお前は『母親だからダメ』と抵抗する。それでも耳元で名前を呼んで悪魔のように囁けば、簡単に俺の手に堕ちるんだ。
俺に抗えない、そんなところが可愛くて愛おしい。
あの夜にも思ったが、背徳的に顔を歪めながらも滅茶苦茶に抱かれて乱れ、感じるナナは……今までになかった新しい色香を発する。
――――まぁそんな事を思ったところで、手紙一枚しかナナを感じられるものは何も無くて……、沸き起こっては溜まる一方の欲を昇華できずに小さくため息が零れる。
手紙には可愛くて仕方ねぇガキと過ごしている日々のことも綴られていて……幸せなんだろうと想像できる。
そこでそうして笑ってろ。
お前たちが生きるこの場所は、俺が守ってやる。
年が明けて853年。
港の完成から半年ほど経って……パラディ島で初めての鉄道が開通した。その日はトロスト区で鉄道開通式とその後祝賀会が執り行われた。兵団幹部や調査兵団ももちろん、敵国の捕虜ながら技術提供に貢献したマーレ兵や……もちろんイェレナを始めとした義勇兵の面々もトロスト区に呼び、厳重な監視を強いた上で式典に参加する運びとなった。
――――俺は反対だった。
こいつらを……壁の中に入れるべきじゃない。
そう思ったが……義勇兵やマーレ兵の力が無くては鉄道も港も作りえなかったことを思えば……一国として分別を見せるという意味では、仕方のないことだった。