第194章 蜜語
雪の降る聖夜。
私は実家の暖炉の前にいた。
ハルやアンが腕によりをかけてご馳走を作ってくれている。ほのかに……お肉の焼ける匂いがする。
ウォール・マリアを取り戻してから約2年が経って……、畜産業も随分と発展してきた。調査兵団にいた頃はお肉なんて滅多に食べられなくて……そうだ、壁奪還の前祝の夜に出されたお肉をサシャが獣のように食いついて……柱に縛られていたっけ。
あの時のことを思い出すと、笑みが零れる。
ねぇサシャ、あなたの好きなお肉やお芋もたくさん食べられてる?それに……そう、リヴァイさんからの手紙にも書いてあった。海でとれた魚や貝?えび?という見たこともないもの……、それも果敢に食べては嬉しそうにしているって。
――――次に会える時には、サシャに狩りを教えてもらおう。そして、狩人だけが食べていたという、私の病に効く成分を含んだ動物の肝臓を、いつか一緒に食べてみたい。
娘は以前お母様が贈ってくれた木馬に跨り、きぃきぃと木馬をゆすっては、きゃっきゃ、とはしゃぐ。
その笑顔をただ見守っていた。……すると、バタバタと大きな足音が聞こえた。あ、この音は………。
「お誕生日おめでとう!!」
「あ、おじさ!」
息を切らしてご機嫌な様子で部屋に飛び込んで来たのは――――ロイだ。
娘はパッと顔を上げて嬉しそうに木馬から降りてロイに駆け寄る。両手を差し出して……抱っこ、のポーズをする。そんな娘にロイは悶絶するように甘ったるい顔をして、がばっと娘を抱き上げた。
「もう、おじさんじゃないよ。ロイ。」
「ろい!」
「あぁもう相変わらず天使だ……!」
ロイは私の娘をまるで我が子のようにむぎゅうっと抱きしめる。