第194章 蜜語
その手紙を読み終えて、返事は何を書こうかと胸が高鳴る。
けれど時間をかけて書きたいから、一先ず引き出しの中の小箱に、その手紙をしまおうと手にとった。すると、少し離れたところの机で色とりどりの鉛筆をかわるがわる持ち替えながら絵を描いていた娘が、目を輝かして封筒を指さした。
「りば!」
「ん?ふふ、そうだね。」
私がいつも真っ白な封筒を大事そうに見つめては、時折リヴァイさん、と言葉を漏らすからか……娘は真っ白な封筒を見ると、指を指して『りば』と言う。
どうやらその封筒……手紙のことをリヴァイ、だと思っているようだ。
「なにを描いていたの?上手に描けた?」
「おはな。」
「お花ね、綺麗ね。これは……葉っぱが4枚ある。幸せのクローバーだ。素敵だね。」
「くろーばー!」
今私は王都の隅の小さなアパートにいて、お母様の病院の事務仕事を手伝ったり……お母様が多忙であれば代りにオーウェンズ病院で患者さんを診たり……往診に出たりもする。
でも、頻度としては多くない。
お母様はなるべく私が娘と過ごせるようにと……ここで出来る仕事しかほとんど、振ってこないから。そしてハルが週の半分以上、手伝いに来てくれる。
だから仕事の合間に娘と一緒にお絵かきをしたり、絵本を読んだり……歌を歌ったりできる。毎日毎日くるくると変化する表情や増えていく言葉、嫌いだった食べ物を少し食べてみるようになったり……些細な変化も見逃さずにこの子の成長を微笑ましく見守る。
――――それが堪らなく、幸せだ。