第16章 姉弟
「はい。」
「実はどうしても読み進めたい本があるんだが、部屋のランプが切れてしまってね。もし君にとって邪魔じゃなければ、そこの椅子で本を読んでもいいかな?」
「はい、もちろんどうぞ。」
私はエルヴィン団長を招き入れた。
「ありがとう。私のことは気にせず、寝てくれて構わないよ。」
「………はい………おやすみなさい。」
エルヴィン団長は私の部屋に備え付けられた簡素な椅子に腰をかけた。
小さなランプの灯りの元で、ページがめくられる音だけがする。
不思議と心が落ち着いていく。
この処理しきれない気持ちを、少しだけ、話してみたくなった。
「エルヴィン……団長………。」
「…………ん?」
「私はどうやら、良い姉ではなかったようです………。」
「…………そうか………。」
「弟を犠牲にしていたなんて……考えたことも……無かった……。」
「………………何も犠牲にせずに生きている人間なんて、いないよ。」
「……自分のこと、ばかりでした………。」
「………………誰だってそうだ。………私もね。」
「……………。」
「……………。」
「………エルヴィン団長を、信じて、いいんですよね………?」
「…………それは君が、決めることだ。」
「…………はい…………。」
エルヴィン団長がページをめくる音が心地よくて、知らぬ間に私は眠りについていた。