第16章 姉弟
翌朝。私の部屋にエルヴィン団長の姿は無かった。
身支度を整えていると、コンコンと扉がノックされた。
「おはようナナ。支度はできたか?昨日は助かったよ。ありがとう。」
「はい、もうすぐ終わります。先に、ロビーに行かれていてください。」
「わかった。待っているよ。」
私は荷物をまとめ、部屋を出た。
エルヴィン団長の使っていた部屋の扉が、開いている。私はふとその部屋に入った。
エルヴィン団長の、匂いがする。
そして私の部屋と同じつくりの椅子の横にあったランプをつけてみた。
想像どおり、当たり前のように柔らかな灯りが灯る。
「…………うそつき…………。」
エルヴィン団長は眉一つ動かさず、まるで真理であるかのように嘘をつく。怖い人だ。
でも、嘘一つつけずにこの兵団を……兵士の命を預かれるはずがない。
そして嘘は時に残酷だけれど、戦略でもあり、人を救うことだってある。ロイの言葉に操られてはいけない。
私はエルヴィン団長を信じる。私はそう固く決意した。
「お待たせしました。」
私はロビーに降りると、エルヴィン団長に笑顔を向ける。
「……おや、昨日は少し心配していたが、ずいぶん晴れやかな顔をしているね。」
「はい、エルヴィン団長の………せいです。」
私はいくつも背が高いエルヴィン団長を見上げて言った。
「おかげ、じゃなく?」
エルヴィン団長はふっと笑う。
「そうです、せいです。」
私は再び笑みを返した。