第192章 回想③
俺達は残された時間を惜しむように巣箱に戻る日々を過ごした。――――ナナは時折つわりが襲うものの、そこまで目に見えて体調が良くない日もなく、元々が小さく華奢だからか腹も全く目立たず、おそらく妊娠の事実を知る者以外にバレていることはなさそうだった。
ある夏の日の夜、細く傾く月を見ながらナナはベッドで腹に手を当てて……子守歌でも歌うように、小さく歌を口ずさんでいた。
その後姿を見て……俺が腹にいる時、母さんは……母さんも……あんなに穏やかで幸せそうだったのか?と……、らしくもねぇ想像をしてみる。
背中からぎゅっとナナを抱き締めると、ナナは嬉しそうに顔だけをこちらに向けて振り返る。
「――――リヴァイさん?」
「一丁前にすっかり母親の面だな。」
「そうですか?まだ……不安だらけですけど。」
ナナがふふっと笑ったと思った瞬間、何かに気付いたように目を開いた。
「どうした?」
「――――動いた……!」
「あ?」
「お腹で、動きました……!」
「――――………。」
ナナはそっと俺の手をとって、自らの腹に沿わす。
「――――動いてみて、ねぇ、リヴァイさんだよ。」
「――――………。」
ナナが話しかけてみても、掌にはなんの振動も感じない。
「あなたのお父さん……かも、しれない人だよ。」
「いきなりややこしい紹介すんじゃねぇ。どんな反応すりゃいいか、ガキも困るだろうが。」
「そうですかね?」
そんな馬鹿らしいやりとりをしていると、掌にわずかにぴくん、と……なにかを感じた。
「――――………!」
2人で目を合わせる。