第192章 回想③
「――――自分の命の危険性があっても産む……それって、母性本能ってやつ?」
ロイは混沌とした胸中の中で生まれたのであろう疑問をぼそりと口に出した。
ロイの言った母性本能、という言葉にずき、と心が痛む。だってそんなもの私にはないの。
――――愛しくて仕方ないと、誕生が楽しみで仕方ないと思えない私は母の資格すらないのかもしれない。
「ううん……。命を諦めたくないだけ。それは母としてよりも……医者としてのほうが、強いかもしれない。」
「………そうなんだ。――――ねぇ、その子……義兄さんの子、だよね?」
そう信じてると言わんばかりに、ロイは私を見つめた。
「――――わからない。」
「は………?」
私の解答が思いもよらないものだったからか、ロイはまた驚愕、というに相応しい顔を見せた。
それはそうだ。
――――私はロイが最も嫌悪する “愚かな女”、そのものだから。
「――――リヴァイさんの子の可能性も、なくはないの。」
「――――信じられない、どうして……っ……!」
「そこまではいくら弟のロイでも、話したくない。」
「………っ……!」
「言ったはずでしょ?『私はきっとこの先も、ロイの思い通りにはならない』って。」
「――――………。」
ロイは眉間に深く皺を刻んで、拳を握りしめて俯いた。
――――ごめんね。
でもロイに分かって、とは言わない。
誰にも理解されなくてもいい。私がどれだけ2人を愛しているのか……。エルヴィンと生きたあの日々はもちろん、心の整理がつききらないままだったけど……戻って来いと言ってくれたリヴァイさんに、ぐちゃぐちゃな心情の中精一杯考えて応えたことも、後悔してない。