第192章 回想③
「――――万が一、なんだけど。もしこの子が無事生まれて……私が、いなくなるようなことがあったら……お母様に、頼っても……いい……?」
私はとてもお母様に目を合わせられず、もじもじと言いにくそうにしながら自分勝手な我儘を言った。するとお母様は少し驚いた顔をしてからふっと柔らかく、笑った。
「――――もちろんよ。愛する娘の子を私にも守らせて。」
「………ありがとう……。」
「あら、じゃあ私おばあちゃんになるのね?」
お母様はうふふ、と嬉しそうに笑う。
その能天気な笑顔は少し……その場の空気を、和やかにしてくれた。
――――ロイが自分の部屋に戻って、ハルが私とお母様に紅茶を運んで来てくれた。ソファに腰かけて、私は……聞いてみたかったことを、お母様に尋ねた。
「――――ねぇ、お母様は……私の妊娠が分かったとき、嬉しかった……?」
その問いに、お母様は……読めない表情のままカップに目線を落として……少し黙った。即答で嬉しかったに決まってる、と答えないところから……あぁ、やっぱり。と、思った。
――――だってそう、お母様はお父様と愛し合って結婚したんじゃないことも知っている。きっと……オーウェンズを継ぐ器として子供を産むことを義務化されていたような、そんな立場だったに違いないから。
もしかしたら私は……お母様に心から望まれた子じゃなかったのかもしれないと、悪い方へ悪い方へと思考が働く今、想像できてしまうんだ。
少しの沈黙の後、お母様は口を開いた。
「――――正直に、言うわね。」
「――――………うん。」
「――――怖かった。」
「――――………。」
「子供を産むことが私の役目だっていうのは分かっていたの。でも……本当にその通りに事が運んで……私はまるで人形みたい、このままこうして……この屋敷に繋がれるんだろうかって、怖かった。」
なんて正直に話すのだろう、と思うと……逆にふっと、笑えてきた。