第192章 回想③
リヴァイさんがいないとこの巣箱は、怖い。寒い。悲しい。
――――リヴァイさんがいてくれなきゃ、私はまるで自分がどんなかたちをしていたのか、思い出せなくなって……輪郭がぼやけて、消え去って行ってしまうような……、そんな心地。
あれから定期診察でも何とか病の進行はそこまで大幅に悪化している様子もなく、お腹の子も一応は……順調に育っていると言われた。
そしてその夜、家に集まってくれたお母様とロイにもその話をして……産みたいんだということを告げた。
お母様は私の患う病気の恐ろしさを知っているから……ひどく辛そうな顔をして、なにかに怯えるような苦渋の顔をしたけれど……最終的には理解をしてくれた。
ロイは目を見開いて、呆然としていた。
エルヴィンの子であるか確かではないにしろ、ロイの望んだとおり私は身ごもって……戦線から離れた場所で……調査兵団のみんなの力になることもできず、ぬくぬくと過ごす事になる。
「――――そう、なんだ……。」
ロイが言ったのは、それだけだった。
いざ実際に本当にそうなってみると、思いのほか闘病しながらの出産が危険であることが現実味を帯びて、その顔は『とんでもないことを自分はしたのでは』と焦燥しているような表情だった。
「――――ボルツマンさんは、中絶を勧めたんじゃない……?」
同じ医者として、彼ならそうするはずだとお母様が聞きにくそうに言う。
「うん。だけど……どちらにしろリスクはあって……多少危険でも無事に産める可能性があるなら、私は産むって決めたの。」
「――――……そう……。」
お母様はそれ以上、何も言わなかった。
あなたの人生はあなたのものだと、そういう考えの人だから。