第191章 回想②
ナナと暮らす部屋までの夜道を歩く。
ここ最近毎日……あいつは一人でどんな顔で帰ったのかと想像してみる。
――――泣いてたか。
辛そうだったか。
寂しそうだったか。
遠目に部屋が見えた。
窓から光は漏れておらず、僅かにざわ、と嫌な感覚を味わう。おい待て……なんで光が灯ってない?いつも暗くてもわずかに光は灯っていたが……。
――――まさか、帰ってねぇのか?
――――帰る途中に何か――――あったなんてことは……。
気付けば、駆けていた。
足早に階段を上がり、ガチャ、と鍵を開けて部屋に入る。やはりそこには一つのランプも灯っておらず、部屋は……真っ暗だった。
「――――ナナ……?!」
もしこの部屋にいないのなら……どこに行った?行けるわけがねぇ、どこにも。
お前の還る場所はここだろう?なぁナナ。
俺がそう、躾けたはずだ。
辺りに目をやると、ベッドの側に行儀よく脱がれたブーツがある。ベッドに目をやると、隅のほうに小さな膨らみがあった。はぁ、と息を吐いて、そっとそのシーツをめくってみる。そこには、俺の使う枕をぎゅうっと大事そうに抱いて顔を埋めて、これ以上小さくなれねぇだろと言うくらいに小さく丸まって眠るナナがいる。
「―――――猫かよ………。」
まだ10時だ。
普通なら起きてられねぇような時間じゃねぇが……、やはり体力がないのか、普通とは違う体の状態なんだろう。ダイニングテーブルを見ても、食事の痕跡はない。またこいつは何も食わずに寝てやがるのか……ガキがいるならより、食わねぇと駄目だろうが。
「拗ねてんのか?俺が……早く帰らねぇから……。」
――――可愛い。
可愛くて仕方ねぇ。
愛しくて、仕方ねぇんだ。
少し前の、兵舎の自室で眠っていたお前が目を覚まして俺に恨み言を言って……俺の服を少しつまんで来たのは、精一杯の甘えだったんだろう。
あの時俺はその手を放させて、わざと部屋を出た。
――――用事なんて、なかったのに。