第191章 回想②
「――――突き放してねぇよ。部屋にもちゃんと帰ってる。」
「じゃあキスした?」
「あ?」
「最近抱きしめて、キスした?」
「――――なんでそんなことをてめぇに報告する必要がある、クソメガネ。」
くだらねぇ、とため息を零しつつハンジを睨み付けると、ハンジは “はぁ~あ” とでも言いたそうに馬鹿にした目で俺を見てやがる。
「これだから恋愛童貞はさぁ。」
「…………。」
「ナナはさ、どんなに辛くても、どんなに迷っても、どんなに自分のことが嫌いになっても……あなたの言葉ひとつで、キス一つで全部信じちゃうし……不安も全部吹き飛ばせちゃうんだよ。知ってるでしょ?――――あの子がどれだけあなたの存在に寄りかかってるか。」
「――――……。」
「それは逆に、それがないと……不安でたまらなくなるわけだよ。ましてや自分の体も変化して……病のこともあって……、迷惑もかけたくない……色んな事に雁字搦めになってるのに、なんで手を差し伸べてあげないの?それが意地悪だって言ってんの。」
「――――わかってる、そんなことは。」
「じゃあなんで……。」
ハンジの言葉の半ばで、流した目線を送ってみる。ハンジは俺の表情から、何かを読み取った。
「――――……ちょっと待ってよ……あなたまさか……。」
「そのまさかだ。わかってる。加減はする。黙って見てろよ、クソメガネ。」
俺の言葉に、ハンジは目を見開いて困った、と肩をすくめた。はぁ――――……と息を長く吐いてうなだれて、恨めしそうに俺を見上げる。
「――――ねぇリヴァイ。あなたエルヴィンに似てきてるよ。まったく……ナナに同情する。」
「あんな二枚舌と一緒にすんじゃねぇよ。」
俺の言葉にハンジは僅かにムッとした顔で反論した。
「ナナに対しては誠実だったよ。――――愛しすぎての過ちはあったかも、だけど。」
「――――俺は俺のやり方で、あいつを手に入れる。」
「――――知らなかった………、あなたもまた、怖い人だ……。」
頭を抱えるハンジを他所に、俺は部屋を出た。
――――さてそろそろ、頃合いか。