第190章 回想
――――――――――――――――――――
――――別に遅くまで残ってやるほどの仕事じゃねぇのにこうしてだらだらと手を動かしているのは、ナナと向き合うのが少し――――怖いからだ。
俺は医学的知識などなにもない。
だから想像でしかねぇが……あの病を患ってる状況で、妊娠出産ってのは相当やべぇんじゃねぇのか?
――――血が止まりにくい病で……出産ってのは少なからず出血を伴うものだろう。もしその血が止まらなくて……ガキを産んだはいいがナナが死ぬ、なんてことは――――、ないと言い切れないだろう。
あいつが死ぬその瞬間まで、見届けてやると言ったが――――……それでも、我が子を抱けねぇまま死ぬなんてことがあったら、あまりに救われねぇ。
――――もし俺の子だったとしたら……俺がナナを囲って、抱き潰した結末がナナの死だとしたら、俺はどんな顔をすりゃいい?
――――ナナを抱かずに、我慢し続けりゃ良かったのか……?
無理だ、そんなことは。
あいつはあんなに温かくて……俺を求めてきて……俺を見つめて、愛してると言う。そんなあいつに最上級の愛情を伝える術を、おれは身体を交える方法しか知らない。
気の利いたような言葉を選んでみてもどれも薄っぺらく聞こえてしまいそうで、そんなまどろっこしいことよりも、肌を、熱を重ねて直接ナナの中に己を突き立てて、その想いも熱量も、全てぶつけてきた。
時折ナナが『普通こんなに、しないらしいですよ……。』とぐったりしながら言ってやがったが……普通と一緒にすんじゃねぇよ。
普通で済むわけがねぇだろう。
お前へのこの狂気的な想いと執着がそうさせてるんだ。