第190章 回想
ハンジさんはとても気遣ってくださるけれど、世に言う “つわり”というものがあまり私にはないのか、吐いたり、全く食事を受け付けないということもなかった。割と今までと何ら変わらず執務のこなせている。
――――ただ時折眩暈がするのは、私の体内を巡る血液が良くないものなんだなと痛感する。
でも、そんなことよりなにより一番辛いのは、1人でいる時間だった。 リヴァイさんに言われた通り執務が終われば私は一人で……部屋に帰る。いつもならリヴァイさんと話をしながら歩いているからか、こんなに遠かったっけ、と思いながら……ぼんやりと歩いた。階段を上がって鍵を開けて、狭い巣箱に還る。
なんでだろう。
あんなに幸せな巣箱だったのに。
見てる景色は同じはずなのに……。
まるで今は……この箱の中に一匹、取り残された子猫みたいな気持ちだ。
「――――寒い………。」
日中は陽射しが温かい。けれど夜はとても冷え込んで、私の芯まで冷やしていくみたい。もう、リヴァイさんが帰って来なかったらどうしよう。
『どんなに心と体を通わせても、お前はエルヴィンのものなんだろう、一生。―――その腹にいるのは、あいつの子だろう?』
――――……そう言って、背を向けられたら……どうしよう。そして私は――――……赤ちゃんのことなんて一切構わず、自分が愛する人にどうすれば愛し続けて貰えるかばっかり考えてる。
こんな私が母になれるの?
なっていいの……?
こんなに乱れる胸中は久しぶりで、良くない思考しか湧いてこない。ハンジさんにいつか教えてもらった……、思考が悪い方に働く時は、休息が必要だって。
私はころん、とベッドに横になる。すると、ふわりと香るのはリヴァイさんの石鹸の匂い。
「――――私はいま、変だ……。だって……泣きたい……。」
リヴァイさんの匂いを抱き締めて、体を丸めて声を殺しながら泣いて……そのまま眠ってしまっていた。