第190章 回想
「――――考えても、仕方ねぇか……。」
過去を思い返して悩んでも時は戻らない。
どちらの子かなんて、産まれるまで分からない。
そして出産の後にナナが無事でいられるかも――――その時が来るまで、誰にもわからない。
窓の外を見ると、すっかり月が昇って夜も更け始めている。
俺はようやくキリをつけて、手元で書き進めていた、さして重要でもない資料を引き出しに片付けた。ナナはもうとっくに部屋に帰ってるだろう。
――――おそらく、俺が帰って来ないんじゃないかと不安に駆られながら……ひどけりゃ、泣いてやがる。今朝も様子がおかしかったからな。俺の子だと言い切れないことに俺が愛想を尽かすかもなんて馬鹿げたことを心配して……、また一人シーツに包まって身体を丸めているんだろう。
――――誰の子だろうが、お前の子であることだけは確かだ。
お前の愛する者に変わりはない。
だから俺の気持ちが変わるはずなどない。
そう、今朝言ってやれば良かったのに………なぜかこんなにガキじみた意地悪をして帰りを待たせているのは、エルヴィンにも妊娠するような抱かれ方をしていやがったことへの…………ちょっとした嫉妬だ。