第190章 回想
次の日の早朝、頬に温かい手が触れて、目が覚めた。
ゆっくりと瞼を開けると、望んだ彼の姿が目に入る。私が身体を丸めて眠る横に座って、私を撫でながら私を見下ろす。
――――もうずっと、ずっと昔から……半分ほど閉じられた瞼の隙間から覗くそのグレーがかった黒い瞳に、捕われている。
ふとリヴァイさんの指が、私の下瞼に触れた。
「――――なに、泣いてやがる。」
「――――一人で眠るのは……寒いよ、リヴァイ、さん………。」
「――――悪い……昨日の内に終えなきゃならねぇ厄介事があった。」
今思い返せばあの情緒の不安定さは、体の変化によるものだったんじゃないかと思う。
寝起き早々泣き出して、帰って来なかったことに恨み言を言うなんて……どんなに面倒臭い女だと思われただろう。
でもリヴァイさんは優しく頭を撫でてくれて……そして、今の私の心情ではどうにも……ちゃんと話せそうにないそれを、聞かないでいてくれた。
「――――………もう少し寝るか?よく知らねぇが……腹ん中にガキがいるなら、疲れやすかったり……するんじゃねえのか。」
「……まだよく、わからない………。」
「そうか……。」
「…………。」
「…………。」
2人揃って黙ってしまうのは……きっとお互いが何を考えているのかを知るのが、少し怖いからだ。
話さないといけない。
だけど怖い。
今までと同じように愛して、とはとても言えなくて……、でも放したくなくて……。私はリヴァイさんの服の袖口を少しだけ、つまんだ。リヴァイさんは私のその行動を目の端でちらりと見て……また、目を細めた。
「――――悪いが様子を見に来ただけで、これから用事がある。」
私がリヴァイさんの服の袖口をつまんでいた手をとって、手を、放させた。――――振り払われたわけじゃない。もう愛せないと、嫌いと言われたわけじゃないのに……とてもとても、苦しい。
「――――無理はするなよ。それと……これからしばらく遅くなる。が、遅くなってもちゃんと部屋には帰る。だからお前は……先に部屋に帰ってろ。」
「――――はい………。」
そう言い残してリヴァイさんは、私の部屋を出た。