第190章 回想
「――――じゃあ生まれるまで楽しみが二倍じゃないか!」
「…………。」
「――――ちっ……どんな発想だそれは。」
「だって私はエルヴィンの子でも、リヴァイの子でも嬉しいもん。こんなとこでまで2人で張り合わなくてもいいのに、とも思うけどさ?巻き込まれてナナは可哀想にねとも思うけど……でも。」
「――――………。」
「大切なナナが、私の愛してやまない君たちどちらかの子を身ごもっていて……新しい命が生まれるんだって思えば……なんでもできそうな気がするじゃない?!こんなに素晴らしいことはない!!外からの敵?だって蹴散らしてやれる気になるよ!」
そう言ってはははっ!と軽快に笑って……、ハンジさんはまた私のお腹をそっとさすった。
――――私はじわ、と涙が滲んで……でも優しい言葉をかけられてみっともなく泣くなんてダメだと、鼻をすすりながら涙を堪えた。
「ありがとうございます、ハンジさん……―――それに、大事な……大変な時に側でお役に立てずに本当に……申し訳ありません……。1人でも多くの兵士が必要なのに……。」
「――――いいんだ、離れてたって私たちは仲間なんだから。それに、何よりもナナの体が大事だ。………ナナ、どうか無事に―――――愛する人の赤ちゃんを産んで。それが私の、希望にもなる。」
「――――はい……!」
やっぱり我慢できずに肩をすくめて俯く私を、ハンジさんはふっと息を吐いて、ぎゅっと抱きしめて、あやすように背中をさすってくれた。
――――リヴァイさんは何も、言わなかった。
いつもはリヴァイさんが執務の終わる時間の目途を教えてくれて一緒に帰るのだけど……、ずっと待っていても声はかからず、結局その日は――――……兵舎の自分の部屋で、体を丸めて一人で――――……眠った。