第190章 回想
ボルツマンさんからの妊娠を告げる言葉を私の隣で聞いていたハルは、飛び跳ねるかと思うほど一瞬、歓喜の表情を見せて両手で口元を覆って目を潤ませた。
――――けれど私があまりにショックで呆然としていたから……喜んではいけないと察したのか、私の隣で背中を優しくさすってくれた。
「この難病を患いながら妊娠とは……なかなかだぞ。――――諦めるか?」
「――――諦め、る……?」
「――――中絶……するか……、いやだが今のお前には中絶もまた命の危険にさらすかもしれないな。……どうしたものか……。」
ボルツマンさんが頭を抱えたその様子を見て、私は初めて自分の腹部に手を当てた。
「――――だめです……。それだけは……できない……。」
「――――そうか。」
「投薬しながら……妊娠を継続して、産み、たい……です。」
「今の投薬量より増やすことになるぞ。臨床もなにもとれていない。お腹の子に影響するかしないかすら……わかっていない。」
「はい……。」
「なにより出産が命を落とす可能性もある……。今の、お前には……。」
「わかっています。――――でも……、愛している人との子供、だから……。」
蹲るように、腹部を守ろうとしている自分に気付く。
ほんの僅かでも、私にも母性というものがあるのか。
お父様に振り向いてもらいたくて朝も夕も、友達もできないほど勉強に全ての時間を費やしたその時期、私は女であることが嫌だった。
――――でも、エルヴィンと……リヴァイさんに出会って、愛して愛されて……女の子で良かったって、思えたから。
それに私は命を諦めたくない。
医者だから。
もし……万が一、ボルツマンさんの言う通り私の命と引き換えだとしても……私にはお母様がいてくれて、ハルがいてくれて……きっとロイも、可愛がってくれる。
――――だから。