第189章 鎹
「――――せっかくトロスト区まで来たのに、ついでに王都に戻ってナナに会いに行かないんですか。」
「あ?……行かねぇよ。捕虜も見張らなきゃならねぇ上に、更に外敵がいつ来るかわからねぇんだぞ。そんな暇はねぇ。」
「――――さすが兵長はいつでも有言実行で、的確な手を打ってくださり感謝してます。」
エレンが僅かに口元を緩めて、笑った。
―――何のことだ、的確な手?
「――――戦線からも離して……安全な場所にナナを閉じ込めてくれて、ありがとうございます。」
「――――てめぇ、もしかして……。」
「――――さすが兵長です。思いもつかなかった……。」
エレンはそれを、カマをかけるでもなく本当に知っているといった顔で言い放った。
「妊娠させちまえば、誰も手出しはできない。」
「――――…………。」
「あいつは弱いくせに戦う気でいて……自分よりもいつもいつも人を救う事ばかり考えていて……危なっかしいから……。感謝してます、リヴァイ兵長。――――まぁ少しは、嫉妬に似た気持ちもありますが。」
―――――なんで知ってる。
ハンジとサッシュと俺以外知るはずのない……ナナを王都に帰らせた本当の理由を………。動揺する俺を見て、エレンは俺に目の笑わない、口角だけ不自然に少しつり上がった顔を見せた。