第189章 鎹

「思い出したんです。俺が一度だけ始祖の巨人の力を発動させることができたのは、王家の血を引く巨人と接触した瞬間でした。」





エレンの横で、ミカサがぴく、と反応した。

ライナーたちからエレンを奪還したあの時の、巨人を操った時のことを言っているのだろう。





「その巨人の顔は父の残した写真と同じ人物。ダイナ・フリッツに違いありません。偶然にも俺はあの日あの瞬間に、無垢の巨人として彷徨うダイナ・フリッツと接触し……窮地を脱したのです。つまりダイナの息子であるジークは解明したのでしょう。“不戦の契り”を出し抜く術を……。我々エルディア人に残された唯一の希望を。」





――――エレンがそれを “希望” と表現した。

その時俺は……奴の中に蠢く怪物がまた大きくなりだしていることに嫌な予感がした。





「壁に潜む幾千万もの巨人で世界を踏み潰す、“地鳴らし”の発動条件を。」



「―――エレンお前……どうして今までそんなことを黙っていやがった？」



「ヒストリアの身を案じたからです。俺の不確かな情報で巨人にさせるわけにはいかないと……思っていました。軽率な判断であったことを認めます。」



「――――ちっ……後でじっくり聞こう。」





その後会議では散々議論がなされた結果……、俺達に残された道は “地鳴らし” での世界への牽制であり……何も世界の事を知りえない俺達がこれから全方向の敵と戦えるはずもなく……何者かの力を借りる必要はある。

――――その秘策に筋が通っていて信憑性があるのなら……ジークの策に、乗るほかないのではないか、と結論付いた。