第189章 鎹
――――その夜の事を思い出しながら、得意とは言えねぇ手紙を書く。
もうかれこれ数か月、月に一度は書くようになった。
海沿いに兵站拠点を気付いてそこに常駐するようになってからは欠かさず手紙を出している。―――――きっとナナは心配しているだろうからな。
何よりいつ外から攻め込まれてもおかしくない場所だ。
意表を突かれて、その文明による兵器でいきなり吹っ飛ばされたりする可能性だって無いわけじゃない。定期的に書くそれは愛を語るような温かく甘ったるいものではなく、ナナの愛する仲間の生存を知らせるためだ。
そしてもし万が一何かがあった場合、ナナが危機を察して回避できるように……現状や新しく得た情報は伝えている。そして俺が手紙を出すと、1週間ほど経って必ずナナから手紙が届く。その手紙が届く度にナナが生きていることに安堵する。
その日、ジークからの要求を精査すべくトロスト区の調査兵団支部の大会議室で、女王と兵団幹部を交えた会議が開かれた。
ジークの要求に、兵団のほとんどの人間が聞く耳すら持たねぇ。そりゃそうだ。あの獣が俺達にしてきたことを思えば……罠とか思えねぇからな。
ジークの要求はこうだ。
『エルディア人の問題を解決する秘策に必要なのは始祖の巨人と王家の血を引く巨人。その二つが揃えば世界は救われる。―――だから、王家の血を引く獣の巨人・ジークと……、弟で始祖の巨人を有するエレンを引き合わせよ』。
それを聞いて誰もが嘘だと、罠だと呆れかえった。
議論に発展することすらなく棄却されるだろうと思ったその時、感情の読めねぇ表情でエレンが言った。
「その話は……本当です。」
――――急に何を言い出しやがる。