第16章 姉弟
「…………久しぶりね、ロイ。」
「……………。」
「聞いたわ。もうお父様と並んでオーウェンズ家を背負って立ってるって………もともとあなたは賢くて、私の自慢の――――――――」
「やめろよ。」
「…………!」
ロイは冷ややかな視線が刺さる。
「………姉さんが調査兵団なんて、絶対に無理だと思ってた………なのに、団長にあそこまで必要とされてるんだ………随分、居心地が良いみたいだね。」
「………最初は色々あったけど………今はとても大事な人が増えて、調査兵団こそが私の居場所だと思ってる。………家を出たこと、なにも後悔してない。」
ロイは先ほどとはうってかわって、拗ねた子供のように腕を固く組んで目線を逸らす。
「………ロイ、悪いけど、私はオーウェンズ家に戻らない。ライオネル家にも嫁がない。」
私ははっきりと意志を込めて告げた。
するとロイは口の端ではは、と薄く冷たく笑った。
「姉さんは天才で、いつでも自由で、誰からも愛されて、ほんと羨ましいよ………!」
「ロイ……?」
「最年少医師資格をいともたやすく取って、簡単にそれを捨てて夢の為に調査兵団に入る………。そんな姿を、凡人の僕から見たらどう見えるか、考えたこともないでしょ?毎日父さんからのプレッシャーの中、ひたすら勉強して勉強して勉強して、それでも姉を越えられない………!父さんも、学友も、使用人達も表面上は僕のことを仮面のような顔で褒めちぎり、陰では姉さんと比較しては勝手に失望する………!」
ロイの表情、声、全てから、これまでの苦しみがあふれ出しているように見えた。