第188章 発現
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―――――秋の柔らかな日差しが心地いい。
私は机に向かっていた。扉がノックされて、部屋の外からハルの声が聞こえる。
「ナナ様。ボルツマン様から資料が届きましたよ。」
「ありがとうハル。机に置いてくれる?」
ハルが扉を開けて、両手いっぱいの資料を持って来てくれた。
「……多いね。」
「はい、『いい論文を期待している』とのメッセージと……こちらの焼き菓子付きでしたわ。」
ハルが私の机の方に焼き菓子とカードを持って来て、見せてくれた。
ボルツマンさんの検診は以前より頻度を落として、今は一か月に一回。
他の患者さんでも食生活でビタミンAを取り入れるところから始めた結果、やはり進行を遅らせることができて……効果があることを裏付けられそうだ。その他の症例も含め、今まで書き溜めていた私の症例も……資料を全てここに集めて、私の患っている難病にビタミンAを中心とした薬が効果があると医学界に発表するために……私は論文を書いている。
論文の足しになるようにとボルツマンさんが膨大な量の資料を送ってくるという、すごいプレッシャーを感じるけど……、こうして、私の事を思ってお菓子を……ましては手書きのカードなんて添える人ではなかったように思う。
その変化が嬉しくて、顔をほころばせた。
焼き菓子はあとでおやつにいただこう……とチラッと時計を見ると、もう午前が終わる時刻。時計は12時を指していた。
「あっ、いけない。ごはんの時間だね、ハル。」
「はい、出来ていますよ。」
「ありがとう。」
前の私ならすぐに食卓について、食事が出て来るのを待っていた。――――でも、あのリヴァイさんと過ごした日々で……、料理や家事をすることがどんなに大変で有り難いか、身に染みたから。配膳や準備はもちろん一緒にするし、前より食事も作るようになった。
………本当にまだまだ上手ではなくて、ハルに厳しく指導されながら、だけど。