第188章 発現
――――そして数時間後……先遣隊からあるはずの連絡がなく、少しの沖合に停泊したままになっていた戦艦を、巨人化したエレンがまるで玩具のようにその戦艦を海から簡単に引き上げ、海岸沿いに轟音を響かせて横たえた。
どんなに強力な戦艦であっても、海の上でこそ真価を発揮するが………打ち上げられてしまえばただの鉄くずだ。
「マーレの皆さんこんにちは!!パラディ島へようこそ!!私はハンジ!!遥々海を渡っていらしたお客様をお迎えする者です!長旅でお疲れでしょう!どうぞこちらでお茶でも楽しんでいって下さい!」
打ち上げられた戦艦に、恐怖を張りつけた顔でしがみつく敵に向かってまさか本当にお茶に誘うとは……ハンジのイカれ具合もとうとうだな、と思ったが。
ハンジの様子はやはりいつもと違った。
――――怖いのか。
未知なる敵が。
……同じ未知の敵でも、巨人にはあんなに目を輝かして……気持ち悪ぃくらいだったが。……人間同士争うってのは本当に醜く愚かなもんだと……いつもと違うハンジの様子で……俺は思った。
「ちなみにお一足お先にお越しのお連れのお客様とは!!すでに仲良しでーす!!だよねーニコロくーん?」
あわよくば、本当に茶の席について……話合いで事を進めることができないかと、クソ甘ぇ考えでハンジはニコロに芝居をさせ、話を合わさせようとした。
……が、もちろん自由になどさせるわけにいかねぇ。
ニコロの背後からいつでも殺せるように俺は刃を突き付ける。
「隊長!!私に構わずこの悪魔共を撃って下さい!!」
「んな?!何を言い出すんだニコロ君?!」
ニコロが叫んだ言葉に、話が違うぞとあからさまに動揺を見せたハンジだが……当たり前だろうが。誰がそんな甘ぇ策に乗ってくるかよ。
「お前の三文芝居に付き合う気はねぇってよ。」
ニコロの叫び声を聞いて、戦艦の上で隊長と呼ばれた男が銃を持って立ち上がった。
「よく聞け悪魔共!!マーレは “穢れた血”に貸す耳など持ち合わせていない!!穢れた連中と豚の小便をすするようなマネもしない!!」
――――ハンジの僅かな希望は、見事に打ち砕かれた。