第16章 姉弟
「結局は、彼女の意志次第ということになるが――――――。」
エルヴィン団長がチラリと私を見る。
行けと、言うのだろうか。調査兵団を去って、公爵家に嫁げと。
心臓が痛む。
私は、どうしたらいいのだろう。
「調査兵団団長として、言わせてもらえるのであれば」
エルヴィン団長が続けた。
「我々調査兵団は、人類をこの狭い世界から解放するために存在している。その大きな夢に確実に近づく鍵になるのが、このナナ・エイルだ。本人が望まないのであれば、いくら積まれたとしても我々はナナを渡さない。人類を救う未来に、値段などつけられないのだから。」
「――――――――………!」
初めて、ロイの顔に影が落ちる。
想定外、不快、屈辱……負の感情が滲んでいる。
「さらに一人の男として言わせてもらうなら―――――――、自分の夢に向かってひたむきに生きている女性を人柱にしてまで、作戦を成功させたくはない。」
私は涙を堪えられなかった。
一人の人間として、調査兵団の一員として、必要だと。
渡さないと言ってもらえたことが、たまらなく嬉しかった。
膝の上のナプキンに、ポタ、と涙が一粒落ちて滲んだ。
私は涙を拭い、ロイに強い視線を向けた。