第187章 海② ※
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リヴァイさんを下から見上げるのは……一年以上ぶりだ。
興奮のためかいつもより僅かに早い呼吸と、私を見下ろす瞳は暗がりの中なのにギラリと光るような鋭さで……、耳を食まれる度に前髪がくすぐったくて……その声は私の頭の中で無理矢理、理性も道徳心も溶かしていくようで……逆らえない。どうしても。
この人にこんなに求められたら、耐えうる女性なんていないのかもしれない。
――――けど、願わくばこの引力は私だけに向けられていて欲しい、そんな強欲な自分にまた呆れる。
「しがらみなんて抜きにして……お前はどうしたい。」
そう問われて、何も言えなかった。
そんなこと……分かりきってる。
爆発しそうなほど胸に押し込めているこの気持ちを吐き出して……愛してるって叫んで、あなたの匂いが、熱が私に移るまで抱き合ってキスをして繋がって――――……共に果てたい。
でも言えない。
そんなのおかしいもの。
頭も心もぐちゃぐちゃで、せっかく嘘が上手くなったはずなのに肝心なところでは役に立たなくて……リヴァイさんに嘘はつけなくて……、ただ、黙るしかなかった。
「ただの一人の女でしかない “ナナ”は俺を望むのか、望まないのかを聞いてる。」
――――私がリヴァイさんを望むのか、望まないのか?
――――それはとってもとっても、狡い問だ。
望まないわけがない。
いつだって、どこにいたって、あなたを望んでる。
ずっとあなたを私に縛り付けて、放さない。
誰のところにも行かせない。
ずっとずっとずっと、私だけのヒーローで……ただ一人の、私だけのリヴァイさんであって欲しい。
そんな図々しい願いを口に出せるはずはなくて……、口をつぐんだ。