第187章 海② ※
海を見た後、俺達はシガンシナ区まで引き返した。
辿り着く頃にはもう日が落ちていて、俺達は往路と同じくエレンの生家の地下室で一晩を過ごすことにした。昼間あんなにはしゃいで、タチの悪ぃ悪戯までしかけてきておいて……ナナはまるで借りて来た猫のように、部屋の隅に膝を抱えて座っている。
「―――おい、寝るぞ。なんでそんな隅にいるんだ。こっち来いよ。寒みぃだろうが。」
「は、はい……っ……。」
そう言ってナナは数センチ、こっちに寄った。
――――いや、だからな……。
なんなんだこのやりとりは毎回毎回。
「そこまで距離をとられるとさすがに俺も傷つくが。」
はぁ、とため息をついてみると、ナナはハッと顔をあげて困ったように眉を下げて目を泳がせた。
「―――あぁもう時間がもったいねぇな。ハッキリさせとくか。」
「………?」
「俺はお前を抱きたいが、お前は嫌なのか?」
「!!」
ナナはまた困ったようにおろおろしながら、抱えた膝に顔を埋めた。
「――――……嫌なら無理強いはしねぇよ。だから来い。体温だけ貸せ。」
俺の言葉におずおずと少しずつ、俺が座る寝床に近付いて来る。だが一向に目を合わせようとしない。
「――――俺を見ろ、ナナ。」
「――――………。」
俺の言葉に、ナナは硬直して俯いた。
「――――何を怖がる?」
「――――……どんな顔をすればいいのか、わからなくて………。」
ナナは小さく呟いてまた、目を伏せた。
ナナが去年の夏に王都に戻ってから一年と少しの間、一度たりとも会わなかった。会いたくて、触れたくて、抱きたくて……お前を感じたくて仕方ない俺に、またこの女は我慢を強いやがる。
―――しかも昼間にまぁまぁエロいキスをしといて、だ。
拷問か?
いっそ押し倒してしまえばいいんじゃねぇかと……多少のイラつきと欲情を何とか抑えつつ、ナナの頬に触れる。