第187章 海② ※
「――――ここには今私と……あなただけ。誰も見てません。少しぐらい装備を解いても、大丈夫です。ね、お願い、リヴァイさん。」
「――――駄目だ。お前だけ行ってくりゃいい。あまり深い所まで行くなよ。あと落ちてる変なものに触るな。」
「誰かの気配を感じるんですか?」
「いや……、誰の視線も気配もない。」
「リヴァイさんがそう言うなら大丈夫ですよ。野生の獣みたいな感覚の鋭さじゃないですか。」
「うるせぇ、俺は入らない。」
「えぇ………。」
「なんだ、文句あるのか?」
「――――わかりました……。」
ナナは唇を尖らせて拗ねた顔をしながら、くるりと後ろを向いてブーツと自由の翼のジャケットを脱いだ。ズボンの裾をまくって、ゆっくりと海の方に足を進める。
足先で確かめるようにちゃぷ、と音を鳴らして……一歩、一歩と足を進めて、輝くような笑顔で振り返った。
「――――冷たい!!」
「………そうか。」
「気持ちいいです!これは……入らないと、勿体ないと思うなぁ。」
「入らねぇっつってんだろ。」
「あっ、ねぇリヴァイさん、これなんだろう?なにかいますよ!」
「知るかよ、触るなよ。」
あれこれと俺をおびき寄せようと何かを言って来るが、その手にゃ乗らねぇよ。ガキじゃねぇんだ。
やっぱりガキみてぇにはしゃぐんだな。
呆れたと同時に、安心した。妙に大人びた雰囲気は、まるで知らない女みたいだったから。未知の物に触れて好奇に目を輝かせるナナは、やはりずっと俺の知っているナナの顔だ。