第187章 海② ※
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しばらくその崖の上から海を見つめていたが――――……、ナナが自ら涙を拭って、空を仰いだ。
「あっちから下に降りられる。もっと側に行くか?ハンジやエレンたちも……海に足を浸してはしゃいでやがったが……。」
「……はい、行ってみたいです。」
ナナと再び馬に跨り、崖を少し引き返して脇に逸れて……なだらかな斜面を下り始めると、馬の足が砂に埋まり始める。蹄が砂を巻き上げて、風がそれを攫って行く。
馬を木につないでナナを降ろすと、ナナは目を細めてまた、海を眺めた。
「――――ねぇリヴァイさん。」
「なんだ。」
「波は……何で立つんでしょう。」
「波?」
「はい、この……寄せて来ては引いていく水の流れのことです。」
「――――さぁな……、向こうの世界の奴らが、こっちに水を送り込もうとしてんじゃねえか。」
「……ふふっ、そうかもしれないですね。」
「絶えず寄せては返してるな。前回もそうだった。止むことはないみたいだ。」
「………そういえば、ワーナーさんがね……。」
「…………。」
「『海は生きているから、波があるんだ。』って言ってた。『人間の鼓動と同じだ。』って。」
「――――夢見がちな答えだな。」
俺が言葉を零すと、ナナは頬を綻ばせて笑って……風に舞う髪を耳にかけた。
「リヴァイさん、海、入りましょう!!」
「あ?」
「ほら、せっかくですし。どうせ前回リヴァイさんは入ってないんでしょう?」
「………当たり前だ。この向こうは全部敵だぞ?どこから狙ってくるかわからねぇのに、装備を解く奴は危機感が無さすぎる奴だけだ。」
「大丈夫ですよ。ほら、見渡す限り誰もいません。」
「知るかよ、わかんねぇだろ。」
俺が拒否をしてふん、と顔を背けると、ナナは俺の手をとって甘えるような目線を送ってきやがる。