第187章 海② ※
その崖の上で、視界が開けた。
壁に遮られていた風が、何の障害もなくなって強く海から吹き上げて来る。ナナの髪がふわっと浮いて――――……太陽光を纏って金色に輝く。
ナナは、はしゃぐと思っていた。
前に遠乗りに連れて行った時に、あれこれと目を輝かせて指を指しては俺に『見て!』と言って笑う。その印象が強くて、恋い焦がれた海を見たらナナは、さぞかし笑うだろうと。アルミンが目を輝かしていたそれと同じように、ワーナーを想いながら、眩しいほどの笑顔で笑うのかと。
開けた視界の先の海を見た途端、微動だにしなくなったナナの顔を後ろから覗き込むと―――……ただただ、その見開かれた海と同じ色の瞳から、ぼろぼろと涙を流していた。
拭うこともせず、嗚咽をあげるわけでもなく……海を見つめている。
俺は何を言うわけでもなく、ただナナと同じ方向を――――……海とその先の空と交じる境目を……見ていた。
「――――……ワーナーさん………っ………。」
ナナが消え入りそうな小さな声を震わせて言った。空の上から、見てるかと……言いたかったのだろう。
――――なぁじじぃ、あんたが見ていた “空” は……ナナに教えた “空” は…… まだ遠い。決して簡単に辿り着けるものじゃねぇ。
だが……確かにそこに……この遥か先に在るんだと……俺達は一つ、知ることができた。
ナナの涙の理由もそこに紐づく、僅かでもいい、希望を含んだ涙であるようにと……ナナの髪をまた、そっと撫でる。