第187章 海② ※
ナナはまだ俺の想いを測りかねているようだ。
なにも疑う必要などないのに。
――――昔からそうだ。
こいつは些細なことで、俺の心が離れるかもしれないと怯える。
――――それが可愛くもあり、厄介でもある。
もういい加減、どんなナナでも、誰のナナでも、どこにいても、いつでも変わらずお前が大事で……お前が全てで……、それは不変で永遠だとわかりやがれ、と思うが。
――――俺も同じだ。
未だに、お前がもう俺を必要としないんじゃないかと……、今度こそ俺の腕をすり抜けて行ってしまうんじゃないかと怖くなる。
「――――お前は猫みてぇだからな……。」
「……リヴァイさん?」
「………いや、なんでもねぇ。」
思わず声に出ていたそれに、ナナが問い返す。
いつかワーナーに聞いたことがある。猫ってのは……死期を悟ると、姿を消すと。
――――だからある日突然、お前が消えて……俺の目の届かないところでまた――――……エルヴィンの元に還るんじゃねぇかと、不安になる。
「――――ちゃんと捕まえておかねぇと。」
「??」
ナナを抱く腕に力を込める。
ナナはそれに気付いたのか、背を預けている俺に少しだけ、甘えるようにすり寄った。
「――――体調がいいなら、もう少し飛ばすぞ。」
「はい。」
しばらく無言で馬を駆って……あの建造物が見えてきた。どうやら外の世界からの侵入は無さそうだ。人の気配はしない。
明らかに俺達の文明とは違う力で作られたのであろう壁のような建造物を見たナナは目を大きく開いて、俺の腕に手を添えてきゅ、と握った。
想像でしかなかったものが、目の前に存在する。
その一端を見て、少し怖くなったのか。
「――――あの向こうが海だ。ナナ、行けるか?」
「――――はい………。」
ナナをまた強く抱いて、その壁の向こうへと……馬を走らせた。