第186章 海
太陽が照り付けていた夏が終わりかけ、少し穏やかな日差しに変わった季節。
――――一年前、馬車を見送った場所で、俺は馬車を待った。
トロスト区調査兵団支部前に、ガラガラ……と車輪を転がす音と馬の蹄の音をさせながら馬車が、着いた。馬車の扉が開いて、最初に降りて来たのはハルだ。
ハルは俺に深く頭を下げた。
「リヴァイ様。お久しぶりでございます。」
「ああ。付き添い、感謝する。」
「いえ。」
そう言ってハルが馬車の中に向かって手を差し伸べると、ハルの手に白く小さな手が重ねられた。馬車から降りて来たのは――――……髪の短くなった、ナナだ。
腰辺りまであった髪が、顎先のラインで切りそろえられていて……印象が違う。
……たった一年でまた………お前は知らない女になったみたいだ。
地面に降り立って俺の方を見たナナの瞳は、変わらなかった。銀糸の睫毛に縁取られた海のような色の瞳を俺に向けて、僅かに気まずそうに眉を下げて、笑った。
「――――リヴァイさん。」
ナナが俺に向ける表情を見てハルもまた柔らかく口元に笑みをたたえて、ナナの手をとっていたその手を俺に向けた。ハルから大事なものを引き継ぐようにナナの手を取る。
「――――では、行ってらっしゃいませ。ナナ様。くれぐれもお体に気を付けてくださいよ。無理はダメですよ?なにかあったらちゃんとリヴァイ様に……。」
「ふふ、わかってるよハル。大丈夫……。」
「良くないと思ったらすぐに引き返して医者に診せる。安心しろ、ハル。」
「――――はい。では……また4日後、ここで。」
「うん。」