第16章 姉弟
「理想を述べて良いのだとすれば、医療従事者は500人、物品と病床は約1万3000人を6か月療養することができる資金と備品の提供ですね。資金で言えば………ざっと30万鋼貨といったところでしょうか。」
「!!」
エルヴィン団長の提示に、私は息を飲んだ。
30万鋼貨……オーウェンズ家の1年の利益、いやそれ以上だ。医療従事者はこの国の7割方を差し出せと言っていることになる。あらかじめエルヴィン団長から聞かされていた交渉の目標額を、更に上回った提示だった。
「なるほど…………。」
ロイは動じることなく、視線を上に向けてなにやら考えている。
「うちが出そうと思っているのは、資金で5万鋼貨、医療従事者は80人ですね。」
「な………っ、あまりに少な………。」
私は思わず声を荒げた。エルヴィン団長は静かな目のまま微笑み、大丈夫だと私を諭す。
「………出資額を引き上げる条件が、彼女ですか?」
「!!!!」
「……………さすがエルヴィン団長だ。話が早くて助かります。」
ロイは今日一番の笑顔を見せた。
「ナナ・オーウェンズを………姉を、返して頂きたい。我がオーウェンズ家に。」