第186章 海
「――――ナナ………。」
ナナは今ここに……調査兵団にいない。
――――実家に療養の為に帰った。
変に頑固な奴だ。多少の病なら押し切って俺達の側にいると言いそうだが……兵長のおかげだ。
――――俺は知ってる。
ナナは王都に返すべきだった。もう二度と、これからのこの戦場に戻って来させない。
あいつは……巨人じゃなく、人の命が目の前で奪われるなんてことに……きっと耐えられないから。そう思った瞬間に、ナナが言った言葉が思い出される。
『平和は尊い。人命も尊い。けれど……そんな綺麗ごとだけでこの世界は動いていない。―――私だってもし……大事な人が、愛するあなた達が……危機に晒されたら………人を、殺すかもしれない。』
そう言っていたけど……俺はナナに人を殺させたくない。死んで欲しくもない。だからこれでいい。あの記憶の断片が組み上がって訪れる、おそらく “人類にとって最悪に近い未来” を……俺は受け入れ、突き進む。
この島の奥深くに閉じ込めたナナをちゃんと、今度は俺が守ってやる。
ここにいる俺の大事な奴らを……俺が守ってやる。
外の敵を、全部殺して……平和を俺が、もたらしてやるんだ。
この目に映る大事な奴らを守るためなら、俺は何だってやってやる。例えそれが残虐だと、非道だと罵られても。
――――こんな俺を、ナナは止めるだろ?
――――だからいいんだ。
そこで待ってろよ。
平和で幸せな時間が訪れる、その時まで。