第186章 海
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―――――俺は、絶望した。
僅かな望みを抱いていた。
父さんの記憶で見たものが、必ずしも事実ではない可能性を。
もしかしたらあれは父さんの妄想で……真実は、そこまで酷いものではないかもしれないと。……でも、あの無機質な壁のような建造物を見た時……また頭の中にあの悪夢が蘇った。
――――エルディア復権派の同志が……ダイナが………あそこから蹴り落とされて、巨人化する。父さんが巨人化して…… “進撃の巨人” をエレン・クルーガーから継承したその瞬間が……まるで自分が経験したことのように、その時の温度や匂いまでも蘇る。あの日に見た残酷な場面はどれも、これまでに間違いなく起こった出来事。
―――――……だとすれば、あの日に見た “未来” は……それもまた、定められた未来で……変えることはできずに、その残酷な未来を辿ることになるのか。
「――――……ミカサ……、アルミン………。」
海に足を浸しながら、果てしないその海の先を見つめたまま呟いてみるが、ザザ………と、海の音がそれを掻き消していく。呆然と立ち尽くしている俺に、背中からアルミンが言った。
「商人が一生かけても取り尽くせないほどの、巨大な塩の湖があるって……。僕が言ったこと……間違ってなかっただろ?」
――――確かにアルミンの言う通り、海はあった。
そして……その想像通り、炎の水、氷の大地、砂の雪原……アルミンが目を輝かしていたそれらも、存在するのかもしれない。泣きたくなるほど美しくて、綺麗で……この世界に生まれた事を良かったと思えるほどのものが、この海の先にあるのかもしれない。
けど……、その前に立ちはだかるのは強大な敵。
世界が俺達を悪魔と罵り、息絶えることを望んでいる。
戦って戦って……敵を殲滅しなければ、俺達に自由は訪れない。――――その結果……あの数々の記憶の断片が最悪の状態で組み上がるかもしれない未来が、俺は怖い。