第186章 海
俺は常に何かあった時に備えて装備を外すなんてことはしねぇ。馬を繋いでいた場所から、僅かに海へと近づくと……ブーツのかかとが地面に吸い込まれるような感触があった。
「―――――なんだ、足が沈むな………。」
海の岸部はやけに足を取られる。驚くほど粒子の細かい砂はサラサラと、強い風に吹かれれば舞うほどだ。
「すごいね!リヴァイ!!まぁそうか……これだけの水の中で、これだけの流れがあって……川の石ころなんかよりももっともっと削られて粉々になるんだね……。ねぇ!!入ってみよう!!海!!」
「やめとけ、あぶねぇ……。それにな、水の中の石というのは異常に滑る。」
「ははっ、なにそれ体験談?!大丈夫だよ、砂だらけだし……!」
そう言いながら俺の制止も聞かず、ハンジは意気揚々とブーツを脱いで海に入る気満々だ。
裸足になってズボンの裾をめくりあげ、ハンジは目を輝かせて遠くの……空と海の交わる場所に目をやった。
「うへぇえ!これ本当に全部塩水なの?!あっ?!何かいる!!」
「おいハンジ、毒かもしんねぇから触るんじゃねぇ。」
「ねぇリヴァイ。」
「あ?」
「――――ナナは知らないんだよね、海がこんなに……まるで生きてるみたいに流れがあって、足が沈んで……生き物が住んでて……、果てしなく広いって。」
「――――あぁ、本で絵を見た事がある程度だろう。」
「見せてあげようね。――――ナナのその目に映せば、きっと……エルヴィンにも届く。」
「………ああ。」